血管探索記

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ビーズでがん治療?肝臓がんの化学塞栓術 vol.1 ビーズ治療の概要と背景

前回の予告通り、数回に分けて「ビーズ」を使った肝臓がん治療を紹介させて頂きます。第1回目となる今回は、ビーズを使った肝臓がん治療の概要と背景について解説します。 

 

【肝臓がんのビーズ治療とは?】

◆まずは知っておきたいこと テイス(TACE/肝動脈化学塞栓療法)

 ビーズ治療について説明する前に、この治療の前提を説明させて頂きます。

肝臓がん治療で最も有効なのは手術による「がんの切除」です。しかし、体力や肝機能の低下、合併症などが原因で手術可能な方は全体の約3割程度にすぎません。

手術が困難な方に対し、どの様な治療を施すのかというと『肝動脈化学塞栓療法』、英語でTrans-catheter Arterial Chemo-Embolization、英語表記の頭文字をとってテイス(TACE)という治療を行います。

肝臓がんに対してテイス(TACE)を行う場合は、次の3つを使います。リピオドールという油性造影剤を使う事から「リピオドールテイス」と呼ばれています。

①リピオドール(油性造影剤)

②エピルビシン(抗がん剤)

③ゼラチン粒子(塞栓物質)

 

まずマイクロカテーテルという細い管を足の付け根の動脈から挿入し、肝臓の動脈まで通します。そして、肝臓がんに栄養を送る動脈に、粘性のある『油性造影剤リピオドール』と『抗がん剤エピルビシン』を混ぜたものを注入して動脈内に停滞させます。

更にゼラチン粒子を注入して動脈の血流を遮断することで、がんへの栄養供給を絶ち「がんを兵糧攻め」にすると同時に抗癌剤の効果でがん細胞の死滅を目指します。 

 

↓マイクロカテーテルはこの様に通します。

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 テイスは30年の歴史を有する標準的な治療法ですが『肝臓がんが多い場合』『肝機能が低下している場合』は使用量が制限されますし、『肝機能の低下で肝臓内の血流が少ない肝臓がん』には抗がん剤が十分に浸透せず、治療効果が低くなるという弱点がありました。

その弱点を克服するために新たに開発されたのが油性造影剤の代わりに『抗がん剤溶出性ビーズ』『血管塞栓用ビーズ』という、球状の物質を活用した新しいテイス『ビーズテイス』です。つまり、ビーズ治療もまた、カテーテルを使ったテイスの一つなのです。

↓これが治療で使用するビーズです。これを血管の中に詰めていきます。↓

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欧米では約11年前から「血管塞栓用ビーズ」が、約6年前からは「抗がん剤溶出性ビーズ」が盛んに使われるようになりました。そして平成26年2月、ようやく日本で保険診療が認められ、国内でも徐々に広がりをみせています。

 

思い返してみると、僕がビーズに初めて触れたのがドイツ留学中の2000年頃でしたから、初期の段階からこの治療に携わってきたことになりますね。

 

今回のまとめ

・肝臓がんの第一選択は手術による切除だが、切除可能な症例は3割程度に過ぎない。

・切除困難な肝臓がんには、テイス(肝動脈化学塞栓療法)という血管内治療を選択する。

・リピオドールテイスは肝機能不良や腫瘍量が多い場合は効果に限界がある。

・その様な症例には油性造影剤の代わりにビーズを使う「ビーズテイス」を行う。

・従来のピリオドールテイスの欠点を補うものがビーズ治療で、ビーズ治療もまたカテーテルを使ったテイスの1つ。

 

ビーズ治療の特徴と利点

①血管内を転がり、目的の深さで停止する。腫瘍周囲の丁度良いところで止まる。

②リピオドールのように細かくなりすぎて胆管を障害するようなことがない。

③血流が遅くてリピオドールが到達しないところでも、転がり込んで阻血効果を発揮できる。

④合成樹脂で作られていることから、阻血効果が長続きする。

 

以上が手術困難な肝臓がんに対して行われる治療の概要と背景でした。 

次回は治療で使うビーズを詳しく紹介します。お楽しみに!

 

 

 

 

【肝臓がんのビーズ治療まとめ】

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