血管探索記

腫瘍や血管の病気のこと、日々に出会ったものから連想する科学、旅行記、コラムなどを記します。

日が昇る方向を示せ

日が昇る方向を示せ


時間・方向・認識などが出来なくなる、認知症の中核症状だ。これを英語で"disorientation"という。オリエンテーションが無くなる、という意味だが、この"orientation"という言葉、何かに似ていないだろうか?

 

東京ディズニーリゾートを運営する会社は、株式会社オリエンタルランドである。"orient"にはアジア、即ち欧州から見て東方という意味がある。"orient"の語源は、ラテン語の"oriri"という動詞で、意味は"rise(昇る)"である。もうおわかりかもしれないが、日が昇る方向は東である。ラテン語の"oriri"が"oriens(日の出)"という言葉になり、やがてそれは東という方向そのものを意味する"orient"という単語になった。ではそれと"orientation"の関係は?

 

現代では、地図上の基準となる方向は北であるが、古代・中世では日が昇る方向、すなわち東であった。教会の祭壇なども東に設けられた。つまり、東という方向 "orient"を正しく示すことが「見当識」であり、ここから"orientation"という言葉が生まれたのである。

 

オリエンテーションに東、つまり日出ずるところを示す、という意味が隠されていることに、僕はこれまで気がつかなかった。なんと迂闊なことであろうか。

 

ドイツ人親友はラテン語やギリシャ語に通じている。そして僕にドイツ語を教える時、いつも古代詩や史実を引用し、語源から教えてくれた。欧米の言語を学ぶとき、こうしたバックグラウンドがあるのとないのとでは、大きく結果が異なる。

 

語源に想いを馳せてみることは単純に楽しい。おそらく将来、自分が失見当識に見舞われないことに、少しは寄与してくれるはずだ。

 

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