血管探索記

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ビーズ治療Q&A 肝臓がんのビーズTACEの工夫~ビーズを活かし切る技を知る~

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今回はビーズ治療(TACE)に関して、私が研究会や学会などでしばしば質問されることを流行りのQ&A方式で解説します。実際にビーズで肝臓がんの化学塞栓療法を行うドクターを意識していますので、専門外の方には少し難しいかもしれませんが、ご容赦下さい。

 

【Q1】ビーズ治療とこれまでの治療では合併症(有害事象)に差があり、ビーズ治療の場合は合併症が多いと聞いたことがあるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?

【A1】 ビーズ治療が始まった2000年代半ば頃は、確かにそのような結果が臨床試験で発表されたこともありました。しかし、昨年発表された大規模な臨床試験では差がありません。これらの臨床試験で大きく違うことは、ビーズの大きさです。初期には大きなビーズ(300~500ミクロン以上)が主として使われていたのに対して、近年では100~300ミクロンが基本サイズとなっています。可能な限りこのサイズを使うことが、治療効果を高め、合併症を減らすことに大きく寄与していることが別の研究でも明らかにされています。

 

 

【Q2】ビーズ治療(TACE)では、粒が凝集して停滞するのを防ぐために希釈することが大切だと言われますが、希釈という意味が良くわかりません。具体的にどうすると良いのでしょうか?

【A2】ビーズ1瓶(1バイアル)には、2ml体積の球状塞栓物質が入っています。例えば、これを造影剤で全量20mlの状態にすると「10倍希釈にした」と言います。私が推奨するのは、100倍希釈から始めて、徐々に濃くしていく方法です。つまり、最初に作った10倍希釈のビーズ液から、2ml取って18mlの造影剤に足し、更に10倍に薄めると10×10=100倍希釈となります。どうしてこんなに薄めるのかと言いますと、粒子をなるべく腫瘍近くまで「転がしたい」からです。シュレッダーに何枚もの紙をまとめて入れるとひっかかりますよね?結局は1枚ずつ処理する方が確実だったりします。ビーズでの塞栓もそれと似ているのです。濃くすると、狭い血管にビーズが「殺到」して、浅いところで詰まってしまうわけです。

【A2 参考写真①】薄めずに注入すると、そのビーズ径よりも太いところ(腫瘍よりもずっと手前の浅いところ)に粒子が殺到して、早期に閉塞してしまいます。

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 【A2 参考写真②】左の薄い方は100倍希釈、右の濃い方は10倍希釈

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【Q3】薬剤溶出性ビーズには、ディーシービーズ(DCB)とへパスフィアがありますが、どうやって使い分けるのですか?

【A3】これは難しい質問です。私は基本的に、肝細胞がんにはDCBを第一選択にしています。理由は、粒子に弾力性があるため、塞栓機能が高そうだからです。ただし、DCBにはエピルビシンという抗がん剤しかチャージすることができません。他の抗がん剤を使いたい場合、特にシスプラチンという薬を使いたい場合はへパスフィアを使う医師が多いかもしれません。もっとも、へパスフィアにチャージできるシスプラチンの量はあまり多くなく、放出も早いため、先にシスプラチンを動脈注射して、後からエンボスフィア(血管塞栓用ビーズ)で塞栓するという方法を取ることもあります。

 

 

【Q4】Q5でエンボスフィアの話題が出ましたが、肝臓がんのビーズ治療において、エンボスフィアが果たす役割を教えて下さい。

【A4】エンボスフィアは抗がん剤をチャージすることができませんが、塞栓効果は一番高いと言われています。ですから、血流を止めて虚血作用で腫瘍を仕留めるには最高の武器です。また、抗がん剤を徐放しないので、正常組織に与える副作用が少ないのも魅力です。こうしたことから、私がエンボスフィアを使う場合は以下の通りです。

①腫瘍が大きく、1回の塞栓で全滅させられないとき。まず血流減少を狙ってエンボスフィアをで塞栓し、残った部分をDCBで叩く方法が現実的。

②原発性肝細胞がんではなく、転移などでどうしても塞栓が必要な場合(シスプラチン+エンボスフィア)。

③肝臓がんの中や近くに「シャント」と呼ばれる、血管の異常な繋がりがあって、それを詰める必要があるとき。

④塞栓する血管が、胆嚢や消化管を養う血管に近く、逆流するリスクが否定できないとき。

⑤肝機能が悪い場合に、広い範囲を塞栓対象にしなければならないとき。

この様な場合はエンボスフィアを使用します。

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さて、随分長くなってしまったので、今回はこれくらいにしておきましょう。

まとめです。

1.ビーズ治療では100‐300ミクロンを基本サイズにします。治療効果が高く、かつ安全です。

2.ビーズ治療の極意は希釈です。100倍から始めることをお勧めしています。

3.DCBにはエピルビシンしかチャージできません。他の抗がん剤にはへパスフィアの使用を考慮します。

4.エンボスフィア(血管塞栓用ビーズ)も重要なアイテムです。使用に習熟しましょう。 

 

 以上、ビーズ治療Q&Aでした。

 

 

【肝臓がんのビーズ治療(ビーズTACE)記事まとめ】

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