血管探索記

腫瘍や血管の病気のこと、日々に出会ったものから連想する科学、旅行記、コラムなどを記します。

文字は口ほどに物を言わない ~「ん」を綴る~

日本語の「ん」は難しい。

「ん」は撥音とも呼ばれ、実は、主に三つの違う音を一つの文字で表してしまっている(細かく分けると10にもなるらしいが…)。日本人は、「ひとつのひらがなには、常に一つの音が割り当てられている」と信じているから、この事実を知ると大抵衝撃を受ける。

  • あんた
  • さんぽ
  • けんか

この三つの「ん」はすべて違う発音だ。解るだろうか違いが?

 

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あんた、の「ん」はn、さんぽ、の「ん」はm、けんかの「ん」はng([g]は黙字(silent)=-ingのngと同じ)である。これを、なんの苦もなく、正しく発音し分けているのがnative Japaneseなので、外国人は、おなじ「ん」なのに違う読み方をする理屈、規則が解らずに混乱し、途方に暮れてしまうのだ。

しかし、なんとか規則を見つけられないだろうか?

 

新橋を使って、実験してみよう。

橋、には三つの読み方がある。
「はし」「ばし」「きょう」
では、それぞれ、最初の文字について口の動きを見てみよう。

は、の場合は開けるだけ。しんはし、なら「ん」の発音は[n]になる。
ば、の場合は唇がくっつく。しんばし、なら「ん」の発音は[m]になる。
きょう、の場合、喉の奥で舌が口蓋にくっつく。
しんきょう、なら「ん」の発音は[ng]になる。

つまり、「ん」に責任は無いのだ。

次の音に連続するために、その発音を変えざるを得ないということになる。

これは紛れもなく、日本語のリエゾンだ。

「ん」の発音規則が見つかった。
  • 唇も口蓋も関与しない音が続く場合は[n]
  • 唇が関与する音(b,m,p)が続く場合は[m](綴りもm。例 Shimbashi, Homma )
  • かきくけこ、がきぐげこ、など口蓋から出る音が続く場合は[ng]

文字は口ほどに物を言わないが、見えない規則はきちんとある。

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