血管探索記

腫瘍や血管の病気のこと、日々に出会ったものから連想する科学、旅行記、コラムなどを記します。

癌とガンとがん

がん、癌、ガン、腫瘍、肉腫、悪性新生物、cancer、sarcoma、tumor、neoplasm、そしてmalignancy。

普段何気なく使っている言葉。あなたは正しく文字を選べますか?

まず、生物の身体には、ある時、異常に増殖した細胞が現れることがあります。それが固形を呈していれば「腫瘍」と呼ぶのですが、例えば骨髄で白血病細胞が増殖する時、通常は非固形です。この場合、「血液のがん」と言ったりします。この「がん」は、他の文字で置き換えることはできません。(えっ?なんで?)

癌=cancer 上皮由来の悪性腫瘍
腫瘍=tumor 良悪性を問わず異常な塊[固形]

ここで難しいのは、上皮由来、と言うところでしょう。上皮とはざっくり述べれば体表面から繋がっている場所です。例えば、口、喉、食道からつながる消化管などですが、その中でも表面由来でなければなりません。たとえば、腸管でも、壁の外側のほうから発生した腫瘍は、非上皮由来になります。上皮由来の悪性腫瘍ならば、例えば胃癌、肺癌などと漢字で記載するのが正しいのです。

では、体の深いところ、骨、血管、筋肉などから由来する悪性腫瘍はなんと呼びましょう?これらは「肉腫=sarcoma 」です。骨肉腫、は有名ですね。

では初めの疑問に戻りましょう。白血病は、✖️血液の癌、ではありませんね。上皮性でも固形でもありません。他の呼び方が必要です。それが「悪性新生物=malignant neoplasm」なのです。でも、これは統計資料に使うような言葉で、ちょっと長すぎます。舌をかみそうですよね。

もうおわかりですか?

悪性新生物=がん(平仮名)と決まっています。僕が昔勤めていたのは、国立がん研究センター中央病院、ですが、数多ある「がんセンター」でがんを、平仮名ではない書き方をしているところは存在しません。それほど明確に決まっています。じゃあカタカナのガンは?

答えは、医学の世界では使いません。
鳥のガン(雁)かと思うくらいです。

皆さんが、書き方に困ったらとりあえずは、平仮名で書けば間違いはありません。腎癌か腎がん、か?どちらも正解。
白血病は血液のがん、です。一般的な呼び方に、「がん」が付かないもの、例えば、悪性リンパ腫、骨肉腫、などは、敢えて癌もがんも使いませんが、細かく言えば、前者は血液のがん、後者は骨のがんです。でも、あまり使わない呼称です。

がん、がオールマイティで、ガンは今日から訣別しましょう。癌と書くときは、注意が必要です。迷ったら平仮名にしましょう。

これからは、どうか、「癌センター」と書かないでくださいね。ガンで入院、ではなく、がんで入院、が適切です。そのがんが、一般に「癌」と記載されるもの、舌癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、などであれば、癌で入院、と書いても良いですが、最近は平仮名書きが流行りではあります。

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保険の説明などでガンと書いてあるのを見ると、途端に脱力し、先を読む気がしなくなるのは、僕だけでしょうか?でしょうね。
(ホントにだいじょぶか、このガン保険⁈)