血管探索記

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ビーズでがん治療?肝臓がんの化学塞栓術No.2 治療で使うビーズを見てみよう

今回は治療で使うビーズについて解説します。

肝臓がん治療でビーズを使う場合の背景などは下記の記事をご覧下さい。

 

↓ビーズ治療記事まとめ↓

drmasa.hatenablog.com

 

【治療で使うビーズ(球状塞栓物質)と使い方】

治療で使用するビーズは正式名称を『球状塞栓物質』といい、大きく分けると「血管塞栓用ビーズ」「抗がん剤溶出性ビーズ」の二種類があります。

ビーズ治療の考え方は前回の記事でも述べた通り、肝臓がんに血液(栄養)を送る肝動脈にビーズを注入して血流を遮断。肝臓がんのみを兵糧攻めにして『腫瘍壊死』させるというものです。では、それぞれのビーズを見てみましょう。

 

◆肝動脈を塞ぎつつ抗癌剤を溶出する『抗癌剤溶出性ビーズ』

※写真はDCビーズ300‐500μm

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 抗がん剤溶出性ビーズは、元から抗がん剤を含んでいるわけではありません。

抗がん剤溶出性ビーズは抗がん剤を吸着する構造になっているので、治療開始前にビーズを抗癌剤に浸して抗癌剤を十分に含浸させてから、肝動脈に注入します。

そうすると、まずはビーズによる血流遮断効果で肝臓がんへの栄養供給が遮断されます。その後、このビーズが吸着した抗がん剤が徐々に溶出して、がん細胞を攻撃します。・・・つまり、血管塞栓と抗がん剤の二つの効果で肝臓がんの死滅を狙うというわけです。

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左の写真は薬剤溶出性ビーズに抗癌剤を混ぜているところです。右の赤い球体の画像は規定の時間を経て抗癌剤を吸着し、赤く染まった薬剤溶出性ビーズの顕微鏡写真です。では、それぞれを拡大してみましょう。

 

抗がん剤を含浸させる前の薬剤溶出性ビーズ顕微鏡写真です。この写真は光の加減で透明になっていますが、抗がん剤を吸着する前はきれいな青色をしています。

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こちらが抗がん剤「ファルモルビシン」を吸着した後の抗がん剤溶出性ビーズです。ビーズの内部に抗がん剤がチャージされて真っ赤になってるのがわかりますね。 

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◆肝動脈を塞栓する『血管塞栓用ビーズ』

 肝動脈を塞ぐ『血管塞栓用ビーズ』 ※写真はエンボスフィア100‐300μm 

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血管塞栓用ビーズはその名の通り、肝臓がんに血液を送る肝動脈を塞栓して血流を遮断するためのビーズです。血管塞栓用ビーズ:エンボスフィアはアクリルポリマーとゼラチンでできており、この様な構造をしています。

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余談ですが、このイラストは以前学会に参加した際に宿泊したホテルでコツコツ作成したもので、メーカーエンジニアのお墨付きです(^^ゞ

 

こちらも顕微鏡で拡大してみましょう。 

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抗がん剤徐放による効果が副作用として働く可能性がある場合は、こちらの血管塞栓用ビーズを使います。

例えば、肝機能が悪いのにも関わらず、腫瘍が広範囲に散在していて、治療後の抗がん剤長期放出に懸念がある場合。あるいは胆嚢や消化管を養う動脈と腫瘍血管が近く、薬剤溶出性ビーズが少しでも逆流すると合併症を起こす可能性がある場合です。

抗がん剤を徐放しないのであれば、梗塞を起こさない程度の僅かな逆流は許容されますが、薬剤徐放作用があると、それが後々悪さをする可能性があるのです。 

 

 

【ビーズの規格・サイズ】
ビーズには様々な大きさがあり、肝臓の状態に合わせて使い分けます。

製品名

球体規格(単位:μm)

Embosphere

(エンボスフィア)

5規格
100-300、300-500、500-700
700-900、900-1200

DC Bead

(ディーシービーズ)

3規格
100-300、300-500、500-700

Hepasphere

(へパスフィア)

3規格
50-100、100-150、150-200

 

 

 次回はビーズ治療の手順と詳細を解説しますので、お楽しみに!

 

 

 

【肝臓がんのビーズ治療まとめ】

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