前回の記事では、治療に入る前の準備について解説しました。今回はいよいよ『抗がん剤溶出性ビーズ』を肝臓がんに注入する様子を解説します。
◆肝臓がんのビーズ治療の流れ
ビーズを使った肝臓がん治療(肝動脈化学塞栓療法)の大まかな流れは次の通りです。
1.マイクロカテーテルを足の付け根の動脈から肝臓まで通す。
2.肝臓の癌化した部位に血液(栄養)を送る肝動脈にビーズを注入する。
3.ビーズによって肝動脈が塞栓され、肝臓がんへの血液(栄養)供給が止まる。
4.肝臓がんが腫瘍壊死を起こして死滅する。
では順番に解説しましょう・・・
と、その前に、ここで出てくる用語の解説をさせて頂きます。
【マイクロカテーテル】 マイクロカテーテルとは血管内治療で使用する道具の一つで、血管内に挿入する中空構造の細い管です。用途や身体の状態によって、様々な種類のカテーテルを使い分けます。
【血管造影室】 カテーテルを使った治療は血管造影室で行います。医療機関や人によっては『アンギオ室』『血管撮影室』や『カテーテル室』または略して『カテ室』など、その呼び方に多少の違いがありますが、機材の差はあれど、基本的にはどれも同じ治療室のことを指します。血管造影室には『血管造影検査法(Angiography)』を行うための装置が備わっており、写真のようにモニターに画面に映し出される臓器や血管の様子を見ながら治療を行います。
【造影剤】造影剤は臓器血流、病気の状態を正確に把握する為に使う薬です。これも様々な種類があり、身体の状態や検査・治療方法に応じて使い分けます。
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1.マイクロカテーテルを足の付け根の動脈から肝臓まで通す
冒頭の用語説明でも述べた通り、ビーズ治療(肝動脈化学塞栓療法)は血管造影室で行います。まずは足の付け根の動脈からマイクロカテーテルを挿入し、血管に沿って肝臓までカテーテルを進めます。肝臓までのイメージは次のイラストの通りです。
モニターに映し出される映像を見ながらカテーテルの道しるべとなるガイドワイヤーとカテーテルを進めていきます。
手元はこんな感じ。一部色を加工してあります。
肝臓周辺の血管はこの様になっています。肝臓がん手前の肝動脈を目指してカテーテルを進めて・・・いよいよビーズを注入します。
2.肝臓の癌化した部位に血液(栄養)を送る肝動脈にビーズを注入する。
マイクロカテーテルが肝動脈まで届いたらビーズを注入します。この記事を読んだ方は『簡単そうだな』と感じるかもしれませんが、実際はどの血管をどう塞栓するかを見極めながらの処置になります。慎重かつ大胆に、そして何よりも正確な判断と操作が求められる難しい治療なのです。『罠を張る血管』なんていうのもありますしね。
さて本題です。マイクロカテーテルにビーズと造影剤の入ったシリンジを接続し、慎重に注入していきます。
ビーズがサラサラと流れていきます。
これはビーズがカテーテル内を進む様子を顕微鏡で捉えた写真。
こちらはマイクロカテーテルからビーズが放出される瞬間を捉えた写真です。この様に肝動脈内にビーズを注入していきます。ちなみにこの写真、結構珍しいものなんですよ(^^ゞ
注入時のポイント
さてここで、前回の記事の最後に示したこの画像が出てきます。写真左が100倍希釈のビーズで、写真右の濃い方は10倍希釈のビーズです。
濃度の高いビーズを注入しようとすると、カテーテルの中でビーズが詰まる事があります。また、その状態で更に圧をかけて注入しようとすると、詰まったビーズが外れた勢いで一気にビーズが放出されてしまい、想定外の血管にまでビーズを注入してしまうことがあるので、注意が必要です。
↓濃すぎると・・・
3.ビーズによって肝動脈が塞栓され、肝臓がんへの血液(栄養)供給が止まる。
注入されたビーズは次のイラストのように肝動脈内にいきわたり、肝臓がんへの血流を遮断します。
4.肝臓がんが腫瘍壊死を起こして死滅する。
目的の肝動脈をビーズで塞栓したら、カテーテルを抜いて処置終了です。
肝臓がんに血液を送る動脈を塞いだわけですから、がんには栄養や酸素が供給されません。そうなると、肝臓がんはやがて壊死を起こして死滅します。これを『腫瘍壊死』といいます。
しかも、今回使ったのは『抗がん剤溶出性ビーズ』ですから、『血流の遮断』と『抗がん剤』の二つの効果で肝臓がんを死滅させるというわけです。
さてさて、意外と長くなってしまったので今回はここまで。
次回は過去に治療を行った『巨大肝臓がん』の治療を紹介します。
【肝臓がんのビーズ治療まとめ】