血管探索記

腫瘍や血管の病気のこと、日々に出会ったものから連想する科学、旅行記、コラムなどを記します。

CT検査室のセリフにだって、上手い下手があるのさ

CT検査を受けた方はご存知と思うが、検査の前には色々と矢継ぎ早に質問を受ける。造影剤にアレルギーがないかどうかから始まって、衣服に金属がついていないかどうかなど。

 

この"ボディチェック"をてきぱきと終わらせないとワーキングフローに影響するので、担当者は自分なりに簡潔な問診の台詞を工夫する。ある日の午前中、非常勤で訪れた東大阪の病院で、ベテランの女性看護師さんから発せられた台詞は衝撃的だった。

「○○さん、お体にシップとかピップとか貼ってませんかぁ?」
(大阪弁のアクセントで)

思わず吹きだしそうになるのを抑えて、僕は横をすり抜け、次の病院に向かったが、この面白さはかなり後を引いた。

そう、ピップ、と言えば、間違いなく「エレキバン」だ。他に続く言葉は無い。(その意味では、この商標は相当秀逸なのだろう)これは誰にでも解る省略語だから使うことが許される。

少なくとも"TNP"が「低燃費」の省略だというのより解りやすいのは明白だ。

しかも「シップとピップ」は脚韻を踏んでいる。美しい...


かつて後輩の若手医師が使っていたある台詞は、これとは正反対にイケていなかった。「お体に金属の部分や取り外せる部分はございませんか?」

さらっと流してしまえばいいのだが、ある患者さんはすかさずこう切り返した。

「おれはサイボーグじゃねぇよ!」

そうだ。そのとおり。これはこの患者さんの勝ちである。
あの先生は、その後台詞を変えただろうか...


「シップとかピップとか...」僕も言ってみたいが、笑わずにスマートに使えるようになるまで、しばらく訓練が必要に違いない。