血管探索記

腫瘍や血管の病気のこと、日々に出会ったものから連想する科学、旅行記、コラムなどを記します。

ビーズでがん治療?肝臓がんの化学塞栓術No.5 ビーズによる肝臓がんの治療例

今回は僕が過去に行った治療例を実際の写真を使って解説します。

 

治療例①巨大肝臓がん

↓これが肝臓がんの画像(血管造影)です。赤丸で囲ったところに巨大な腫瘍が二つあります。(肝臓がんには血管が多いので、蛇行した異常血管がたくさん見えます。)

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造影剤を使ったCTで見ると、この様に見えます。矢印の白く見えるところが肝臓がんです。(肝臓がんは血管が多いので、造影剤がたくさん流れ、白く見えます。)

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赤い点線で示した肝動脈にビーズを注入します。

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拡大してみましょう。左の写真はビーズを注入してからしばらくするとみえてくる、レンズ状あるいは円形の構造で、腫瘍内の拡張した血管が写し出されていると考えられています(プーリング現象)。右の写真は塞栓が完了され、血管が「木の葉を落とした枯れ枝」のようになっている状態です。こうなれば塞栓は完了です。

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治療効果をCTで確認してみましょう。左が治療前、右が治療後です。左上に二つ、左下に一つある肝臓がん(白い部分)が、右の写真では壊死を起こし、黒く打ち抜かれたように見えます。がんに侵された部分だけが死滅していることがわかります。

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治療例②多発 肝臓がん:肝機能不良

多発かつ、肝機能不良がある患者さんの治療例です。赤丸内の白いところが肝臓がんです。この方は肝硬変が進んでいて、しかも多発がんだったため、手術はもちろん、従来型の化学塞栓療法(リピオドールテイス)も不可能でした。

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この症例でビーズ治療を行った際の血管撮影を下に示します。左側が治療前、右側が治療後になります。左の写真では、まるで花が咲いているかのように、無数の腫瘍(黒く結節状にみえるところ)が写っていますが、ビーズ注入後は太い血管を残して消えています。(刈り込まれた直後の植木のようですね。)

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治療効果をCTで確認してみましょう。巨大肝臓がん治療の時と同じように、がんだけが壊死を起こし、打ち抜かれたようにみえます。

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治療後症状と検査所見

~痛くないがん治療~

 

 ビーズ治療を行うと、『腫瘍壊死』を起こします。このため、「塞栓後症候群」と呼ばれる、次のような症状が現れます。この他に、肝機能が一時的に悪化することもありますが、ほとんどの場合もとに戻ります。

・数日の倦怠感

・発熱(時に38℃以上の高熱)

・腹痛

この塞栓後症候群のうち、特に「腹痛が軽度である」というのが、ビーズ治療における利点の一つです。数々の臨床試験でも証明されており、明らかに他の治療と比較して、「痛くない」治療である、ということができます。

治療後は状態が安定するまでの数日間は入院します。ちなみに、壊死した腫瘍は徐々に吸収されますので、手術で切除する必要はありません。ただし、ひじょうにまれですが、壊死した部分に感染がおこり、チューブで膿を抜く処置が必要となったりすることがあります。治療にともなうリスクの詳細は、治療を受ける医師から十分納得がいく説明を受けてください。

 

ビーズ治療Q&A

最後に、よく聞かれることのQ&Aです。 

 

Q1:動脈を塞いだりして肝臓に悪影響はありませんか?

A1:肝細胞癌は動脈から栄養を受けていますが、癌でない肝臓は「門脈」という血管で主に栄養されています。したがって、動脈を塞ぐと癌は死んでしまいますが、肝臓の正常な部分は門脈に栄養されているため、生き残ります。(肝障害は起こりますが一時的で、回復します。)このようになるわけですね。

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Q2:どんな副作用がありますか?

A2:血管塞栓術をすると、みぞおちに痛みを感じることがあります。遠慮なくお知らせ下さい。痛み止めを点滴から入れて症状を和らげます。また、治療翌日の午後から数日間はみぞおちの痛み、熱、全身倦怠感や食欲不振などがみられます。また肝機能も一時悪化します。肝臓を保護する点滴・注射を行います。これらはテイスに共通する副作用で、リピオドールを使った場合よりビーズ治療の方が、軽い傾向にあります。

 

 

Q3:ビーズによる肝臓がん治療のポイントは?

A3:繰り返しになりますが、次の通りになります。

・手術困難な肝臓がん治療にはテイス(TACE・肝動脈化学塞栓療法)が適用になる。

・油性造影剤リピオドールを使ったテイスをリピオドールテイスと言う。

・『リピオドール自身による肝障害が無視できない』『多発・巨大腫瘍では十分に浸透させられない。』『血流の弱い腫瘍にも、十分到達しない。』という欠点があった。

・その欠点を補うのがビーズによる肝動脈化学塞栓術である。

・つまり、ビーズ治療はテイスの中の一つである。

・ビーズには血管塞栓用ビーズと抗がん剤溶出性ビーズの二種類がある。

・ビーズ治療がより適するのは次の3つ。

【肝機能不良例での多発腫瘍】

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【血流の弱い腫瘍】

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【巨大な腫瘍】

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長々とお付き合い下さいまして有難うございました。これで肝臓がんの化学塞栓術「ビーズ治療」は一旦終了です。 

本当は『これからビーズ治療をしたい』という医師に向けて、詳細な内容を書こうかとも思ったのですが・・・延々とこの話題だけで引っ張る事になりそうだったので、それはまたの機会にしようと思います。

ではまた サヨーナラー(_´Д`)ノ~~.

 

 

【肝臓がんのビーズ治療まとめ】

drmasa.hatenablog.com