前回、前々回は手術による肝臓がん切除が困難な症例の治療方法や、治療で使用するビーズについて解説しました。
今回からは、いよいよビーズ治療の一連の手順を解説します。ただ、少し長くなりそうなので、準備編と治療編の2回に分けて解説しようと思います。中々目にする事のできない貴重な写真も出てきますのでお楽しみに!
◆ビーズ治療を始める前に
治療を行うためには準備が必要です。「当たり前だろ!」なんて言われそうですが、これがまた中々大変で、尚且つ面白いんです(^^ゞ
①抗がん剤溶出性ビーズに抗がん剤を含浸させる
患者さんを治療室に入れる前に、まずは抗がん剤溶出性ビーズに十分な量の抗がん剤をチャージさせないといけません。ビーズは写真のようにバイアルという小瓶に入っており、中は生理食塩水で満たされています。
まずは注射器を使って、バイアルの中にある上澄み液(生理食塩水)を取り除きます。ここで可能な限り多くの上澄み液を取り出すことがポイントです。
次は抗がん剤(ファルモルビシン)を用意します。この抗がん剤は粉末ですから、ビーズにチャージするために約2mlの蒸留水で抗がん剤を溶きます。
1バイアルのビーズにチャージする抗がん剤の分量は約50~75mg。効率的に抗がん剤をチャージするには濃厚な抗がん剤溶液を作る必要があります。・・・そう、最初にバイアル内の上澄み液(生理食塩水)を可能な限り抜き取るのがポイントだと述べた理由がここにあります。
↓蒸留水で抗がん剤(ファルモルビシン)を溶くとこのようになります。
抗がん剤溶液を、上澄み液を取り除いたバイアルに注入します。ビーズの入ったバイアルが、みるみる赤色の抗がん剤で満たされていきます。
出来上がり。
この状態で抗がん剤溶出性ビーズ内に抗がん剤がチャージされるまで待ちます。もちろん規定の時間があるので、術者のさじ加減で時間を決める訳ではありません。
しっかりとチャージするとこの通り。青色のビーズが真っ赤に染まりました。
②抗がん剤溶出性ビーズを注入する準備
ビーズに抗がん剤がチャージできたので、次は注入するための準備に入ります。
先程作ったビーズのバイアル内には『抗がん剤を十分チャージしたビーズ』と『蒸留水』が入っているので、一番初めの作業と同じように、注射器を使ってバイアル内から蒸留水のみを取り出します。
どんどん取り除いて・・・こうなります。これで右のバイアル内には抗がん剤を十分にチャージしたビーズだけが残りました。
今度はバイアル内に残ったビーズと造影剤を混ぜていきます。写真右がビーズ入りのバイアル、写真左が造影剤の入ったシリンジです。バイアルからビーズを吸い取る様子が良くわかりますね。
造影剤とビーズを混ぜる事ができました。これでようやく準備完了です。
以上が治療前の準備になります。
実は、準備中にも色々な小技を使っているのですが・・・その辺の話になると更に長くなるうえに専門的な知識が必要になるので、またの機会に解説しようと思います。
因みに上の写真、左の薄い方は100倍希釈、右の濃い方は10倍希釈です。さてさて、何が違うのでしょう・・・?
次回のビーズ注入編に続きます。
【肝臓がんのビーズ治療まとめ】