一期一会という言葉がある。
このIT社会、ジェット機で地球の裏側まで、スペースシャトルで宇宙ステーションにまでいける社会では、もう死語になっただろうか?
ニルスのふしぎな旅に登場する、「呪いを受け百年に一度、一時間だけ姿を現す港町ビネタ」は、その一時間の間に、ビネタ人ではない誰かが何か一つでも買い物をしてくれなければ、また百年、海の底に沈んでゆく運命だ…
この町が目の前に現れる少し前に、浜辺で小さな銅貨を拾ったが、自分には何の価値も無いからと捨ててしまったニルスには、期限までに買い物をしてあげることができず、あと一歩というところで、ビネタは深海へと消えて行った。
すぐそこにあるものに手が届かないことがある。一度手放したら二度と手にすることの出来ないものがある。
人はきっと、互いに必然性をもって出会う。それを意味あるものにするには、漠然と生きているのでは不十分だ。
自らが幸せになるために生き、誰かの幸せを願うために生きる。
そうでなければ、日々あなたの手のひらから、大切なものが、まるで海辺の砂のようにさらさらと、流れ落ちては消えて行く。